疎開8:人を育てる温かい土壌 トップページに戻る
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(現 神戸市東灘区 Mさんの手記より)<宿舎のおばさんの日記 続き>
10月2日  今日は国民学校より野菜を貰ふ。落合農業会よりも茄子、じゃが
芋、玉葱を頂く。サヤ豆をお八ツに頂いたので明日の楽しみ又一つ。
10月12日  三夫人が面会を終えて帰神さる。子供は一人もついて帰ると言
う者もなく三夫人安心して涙されつつ帰って行かる。子供にとって親程良いも
のはないのによく諦めてゐるかと思ふと可愛くてたまらない。
10月26日  お祭りの宵なるも御馳走なし。比島レイテ島沖戦果を大本営よ
り発表さる。明日は中町常会へ子供達がお客に呼ばれて行く。子供達はうれし
くてたまらない様子。可愛いものなり。
12月11日  今朝は大変な霜。子供達は一生懸命掃除をしてゐる。抱いてや
り度い程可愛い姿。ミカンが9個道に落ちていたとて持って来る。(後略)
−−−この日記でも分かるように、私たちはいつもお腹をすかして、不自由な
生活ではありましたが、宿舎のおばさんや、落合の皆様の温かい愛情につつま
れて、親元では得られない貴重な経験をさせて頂いたと思っています。平和で
豊かな生活が当り前のようになってしまっている今日でもなお、世界のどこか
で、50年前の私たちよりもずっとひどい生活を余儀なくされている人々があ
ることを思うとき、深刻なイジメなど子供の学校生活にあっていい筈がないの
に‥‥と近頃のニュースを聞くたびに悲しくなります。相手の立場になって物
事が考えられる人に育って欲しいと思います。落合の町にはそういう人を育て
る温かい土壌があると今でも思っています。

                              (95/03/13)