疎開4:インクの色腿せた手紙 トップページに戻る
前← 目次 →次
(現 神戸市垂水区 Oさんの手記抜粋) 私の手元には一冊のスクラップブ
ックがある。その中には集団疎開の際、両親、知人と取り交わした手紙の数々
が納まっている。48年前の手紙はインクの色が褪せ、クレヨンの色も変わり
かけている。紙はザラザラの黒い藁半紙、何かの残り紙、包装紙の裏、3銭の
官製はがきとさまざまである。  どの手紙の中にも二度と経験出来ない、いや、
決して経験してはならない戦争中の生活がいっぱいに詰まっている。
  −−−父からの手紙 1(原文のまま)官製はがき−−−
  篤ちゃん、お友だちとみんなで、毎日元気よく、くらしてゐることゝ思って、
お父さんもお母さんもよろこんでゐる。しかし、毎日篤ちゃんたちが、どんな
ことをしてゐるか、また、どんな勉強をしてゐるか、とても知りたいと思って
ゐる。田舎には篤ちゃんの知らなかったいろいろな珍しいことが澤山あるのだ
から、それをよく勉強して下さい。勉強と言ふのは、たゞ本をよんだり字を書
いたりすることばかりではなく、自然や風俗や人の働きなどをよく見ることも
勉強です。そしてそのことをお父さんに手紙で知らせて下さい。神様がいつも
篤ちゃんとお友達を守ってくださるやうに祈ってゐます。  サヨナラ
  −−−父からの手紙 2(原文のまま)官製はがき−−−
 篤ちゃん 昨日もおとひも雨でしたが、きょうは雲のあひだからお日さまが
てってゐます。昨日畑のいもをほったらいもの小さいのがとれました。だいこ
んがだんだん大きくなってかました。のぞみちゃんはあいかはらずウマウマと
言ってゐます。ランドセルや紙や靴下などすぐ送ります。御元気で。父(後略)

                              (95/03/01)