田舎の葬式 トップページに戻る
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 田舎のお葬式はとにかく食器の洗い物から始まります。日常の生活で使う食
器の数はそんなにたくさんではありません。ところが、いざ葬儀となると、ど
こにしまってあったのか出てくるは出てくるは次から次へと器が用意されてき
ます。ふだん使わないものをいざというときすぐ出せるようにしておくのも主
婦の腕の見せどころでしょうか。
「昔と比べると楽になつたもんじゃな」
「店で用意してもらう物は何もなかった。何もかも全部作りょうたがなあ。」
「器だって塗りの物で絹布巾でしっかり拭いてしまようたがなあ。」
「今はプラスチックじゃけんな、本当に簡単になっていいわ。」
 半世紀前のいや二十年程の間に、農家での冠婚葬祭の持ち方もずいぶんと変
わってしまったようです。
 「ああじゃったなあ。」「こうじゃったなあ。」と言いながら、タライの前
に座り込み、お皿を一枚一枚と洗いながら昔話に花を咲かせます。こんな光景
も何年か先にはもう見えなくなるのかもしれません。

                              (94/11/22)