（死闘３時間）　３ｍを越す雪屁が牙をむいて延々と連なり、小さな雪粒が
右横っつらから容赦無く殴りつけて来ます。北斜面の木々は、幹にも枝にも針
のように尖った白い雪を片側全面に突き出して、ごうごうと唸っています。視
界悪く、この先がどうなっているのか分かりません。「朝の内に天気は回復す
るでしょう。」との天気予報に「くそー　大嘘タレめ！」と腹も立ちました。

　春近い雪にズボッと足を落とし込み、抜き上げるのに苦労します。木をなぎ
倒した所にできた雪屁の下は空洞です。両足とも踏み抜けば胸まではまります。
両手のストックに体重を分散させながら前の人の足跡を伝いますが、体重の違
いはどうしようもありません。数歩行けば落ち込み、這い上がろうともがけば、
反対の足まで落ち込んでしまいます。長靴に雪が入り２枚履いていた厚手の靴
下も冷たく濡れてきました。

　滝山の山頂にツエルトを張り温かく昼飯を食べ、爪ヶ城へと縦走に移った迄
は上々でした。が、尾根を下り始めるとすぐさま大きな雪屁。初めは「こりゃ
ぁ凄いなぁ。」と元気でしたが、３０分も進む内に歩が鈍くなってきます。で
も、もう少し下ると雪も少なくなるだろうと安易に考えて進みました。カイロ
を２つ入れ、毛糸の手袋も２枚重ねていましたが、鼻水が垂れます。

　一瞬の晴れ間に、爪ヶ城の登り道が向かいに見えました。あちらは雪屁が無
さそうです。何とかもう少し辛抱すれば難所は乗り越えられるぞ、と思ったの
も間違いでした。鞍部までの標準コースタイムは５０分。もうとっくに５０分
を過ぎていますが、まだまだ下りが続きます。雪も減りません。引き返すより
は進むべきと、もがき、あえぎ、大息ついては、また、もがきです。

　やっと鞍部。ところが爪ヶ城への登りも雪屁じゃないか！。谷を下って里に
出るかと相談しましたが、道の状況は掴んでいないし、出た所は立ち入り禁止
の自衛隊の演習地？。ドスン・ドスンと大砲が地響きを上げ、ドドドドドと何
砲か知りませんが連発していたのを、今朝の登りに気味悪く聞いていたし。こ
こからは爪ヶ城の方が近いので登るしかないということに。

　歩き始めましたが、上るにつれて雪も深くなるだろうし、疲れも溜まるだろ
う、日暮も迫ってくるだろと考えると心細くなってきます。これは遭難するか
も？の不安が出てきました。でも、非常食１食、水、懐中電灯、上着、雨具も
有るので１晩くらいなら何とか凌げるかなぁと強がってみたり。無線機を持っ
て来ていたら良かったのにと悔やんでみたり。

　そう思いながらも１歩１歩と進めば１歩１歩と山頂が近づいてきます。だん
だんと気分も元気になってきます。よくしたもので薄日も射してきます。振り
返ると縦走した尾根が見渡せます。「なんとまぁー　よう歩いたもんじゃ。」
「まだまだ若いモンにゃぁ負けんで。」と自画自賛し合っていると、雪屁に落
ち込むのもマタ楽しです。

　急に山頂が近寄って来て、あっという間に通り過ぎて三角点。厳しい雪屁も
終わりました。ハーと大息をついた途端に疲れがどっと出て来ました。３時間
の闘いでしたが半日以上かかった感じです。標準コースタイム２時間少々の所
を３時間で縦走しているので、ゆっくりのんびりの日頃の山歩と同じで、遭難
しかけたなどと騒ぐような事ではなかったようです。やれやれ。心ときめく縦
走が体験できてよかったのかな。

　（滝山・爪ヶ城）　岡山県の北東部県境の那岐山（ﾅｷﾞｻﾝ　1240m）から西に
滝山（ﾀｷﾔﾏ　1197m）、その西に爪ヶ城（ﾂﾒｶﾞｼﾞｮｳ　1115m）の３座が連なって
います。３座の南麓は広々した日本原（ﾆﾎﾝﾊﾞﾗ）。そこは自衛隊の演習地で、
丘陵をトラック・戦車が砂ぼこりを上げ、演習日には大砲が轟いています。

　（広戸風　ﾋﾛﾄｶｾﾞ）　爪ヶ城の南麓は旧広戸村。あの有名な「広戸風」の吹
く所です。気象状況によって台風以上の暴風が吹き荒れ、稲穂がちぎれ飛ぶそ
うです。家々は北側に防風の竹や木を植えています。東西に連なる３座の地形
が風を強めているようです。この冬の雪の多さと、ここの風の強さが険しい雪
屁を作ったのでしょう。

　（反省）３月も下旬近くなので、雪は少ないだろうとの予想が間違いでした。
低山を侮ってはいけませんなぁ。

　（データ） 1996.3.18（火）　雨→吹雪→晴れ　積雪 滝山山頂　２ｍ余
自宅 5:50発　　津山集合 7:30　　下山口に車待機 8:15
滝山登山口（禊橋） 8:50 450m　　滝神社 9:15 560m
５合目 10:00 830m　　８合目 10:50 1050m（なだらかなブナ林　気分最高）
滝山山頂（昼食）11:20〜12:10 1197m　　コル 13:30 896m
爪ヶ城山頂 14:50 1115m　　三角点 15:10 1076m　　873m地点 16:00
雲海の丘 16:15 750m　　声ヶ乢 16:50 490m　　滝山経由して帰宅 18:40