温かい春の鹿児島あたりを数日うろつきました。
帰ってみると、ここ岡山県北はマタマタ雪なんです。今日はベト雪ですわ。
(開聞岳 カイモンダケ 922m 鹿児島県)薩摩半島の南端に聳え、端正な山容か
ら薩摩富士と呼ばれています。標高が1000mに満たない山ですが、登山口
が海面近くなので山の高さがそのまま登山の高度です。ここ中国地方最高峰の
大山1711mへの高度差は800mばかりなので、開聞岳は大山以上です。
(余命幾ばく)人生80年の世とはいっても、旅に出たり山に登ったりでき
るのは、いいとこ70歳くらいまででしょう。今は何とか多病息災のおかげで
日々是好日を過ごしていますが、元気なのはアト数年だろうと予感しています。
そんなわけで好きな山歩も急がないと・・・そこで九州と北海道の山を1峰ず
つ登って、全国の山を登った事にしようかな、と考えたんですわ。
(指宿から)星の見える6時過ぎに宿を出て、JR枕崎線に乗り込みます。
午前中の指宿発の開聞への直通は、これ1本なので2両連結の列車は通学の高
校生でかなりの盛況です。他に乗り継ぎが1本。バスは隣の山川町から午前に
3便。わが岡山県北よりも不便です。
(開聞町)開聞駅から町並みや田畑のなかを約2キロばかり歩いて実質登山
口の2合目へ。開聞岳が町の3分の1を占めるこの九州最南端は、大きな観光
駐車場や草スキー場やらと開発の賑やかなことです。でも平日の早朝というこ
とで観光客の姿は見えません。正面の開聞岳は快晴に近い空にくっきり浮かん
でいます。もうナノハナの実は大きく膨らんで花の終わりです。
(錦江湾)登山口の赤松混じりの林を過ぎ、照葉樹の中を登ります。4合目、
あと2.3kmで上着を脱ぎました。行く手の林の足元から、まばゆい黄金の
光が差し込んで来ます。海面に反射した朝日が錦に輝いています。そうか、こ
れで鹿児島湾を錦江湾と呼ぶんだなぁと勝手に合点。その錦の輝きの中に長崎
鼻が黒く突き出ています。
(南の動植物)ここは春。ホーホケキョが迎えてくれます。もう、かなり前
からさえずっているのでしょう。ここにもヒヨドリと烏は鳴いています。
南国のためか林はほとんど照葉樹。低木のアオキが赤く艶やかな実を目立た
せています。ヒサカキの実を踏みつぶして登山路は黒い斑点だらけです。山全
体にシダが茂り、岩をイワマツ?が覆っています。
(螺旋式登山道)登山口は北側に。登るに連れて東に進み太陽が正面に来ま
す。やがて南方向へと変わり、大隅半島が右手に暗く連なっています。やがて
陽は後に回り、自分の陰が先導してくれます。高度も上がり低木帯となるころ、
道は南面に移り、眼下の海岸線は太平洋と東シナ海の2つの白いシブキを上げ
ています。薩摩半島の岸が曲線を描き、枕崎がすぐ下に望まれます。頂上近く
で再び錦江湾が正面に望まれますが、時刻の関係で錦の輝きは失せています。
1周半ほどで山頂に到着。山を周回する螺旋道は眺めを次々を新しく変えてく
れます。中国山地でも展望の良い山には欲しい螺旋道です。
(特攻隊)小型プロペラ機の音が近づき、遠ざかって行きました。自然に涙
がこぼれ、特攻隊が偲ばれました。片道燃料の特攻機はこの開聞岳を目標に翔
びたち、開聞に「祖国バンザイ」と別れを告げて敵艦に向かったんだとか。
(山頂)山頂は1周およそ120mの火口あとで、その窪みには常緑樹が茂
っています。東に佐田岬がぼんやりと見えています。天気の良い日には遠く屋
久島が見えるそうです。山頂で360度の展望を味わい、パチパチ写真も撮り
ました。ここまでは私ただ一人。「やっぱり静かな登山は良いなぁ」と喜んで
いると、近くの木がガサガサと揺れました。猿かな?
(本土最南の百名山)物音に振り向くと山男。続いて老夫婦。また1組。す
ぐ後に東京から一泊で霧島と開聞を登って帰る40人ばかりのツアー。またま
た別の団体と、狭い岩の山頂は超満員。9割?は高年のご婦人方。まあ、みな
さん、お元気でお賑やかなこと。平日なのに、さすが百名山かな?
(下山)東京団体に間を開けて下山を始めましたが途中で追いつき、賑やか
を避けて時間調整しながら下ります。ゴロゴロ連なる岩の頭を伝いながら、ま
た、砂利道に足を滑らせながら・・・登山口に下りました。
(長崎鼻)下山が予定より早かったので、予定外の長崎鼻に寄りました。若
い二人連ればかりです。「おじさん、シャッター押して・・・」に応えてサー
ビスしながら「若いことはイイコトだなぁ」と無情の感慨。開聞岳はここ長崎
鼻からの眺めが最高とか。弧を描く浜の向かいに浮かぶ薩摩富士をたくさん撮
りました。写真の仕上がりが楽しみです。
(温泉で一杯)帰りのバスでもJRでも、山頂で逢った80前爺さんと40
過ぎ美人の夫婦と隣合わせ。「爺さん、替わりましょうや・・・」と言いたい
のを抑え・・・車窓から、今日の開聞岳を何回も何回も振り返りました。これ
が現世の見納めか? いや来世にもまた来るぞぉー と。
指宿温泉で疲れを癒した後の夜の夢に、開聞岳が出てきたような、現れなか
ったような・・・
(データ)1996.2.22(木) 晴たり曇ったり
宿 発 6:10 指宿駅 6:35発 開聞駅 7:00 2合目登山口 7:40
5合目 8:40 7合目 9:10. 山頂 10:10〜11:10 登山口 12:40
長崎鼻 13:10〜15:07 山川駅15:30 指宿駅 15:36着 宿 15:45
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