深い河 トップページに戻る
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 一昨年の夏、隣村のSさんが、「この本をどうぞ・・・」と渡してくれまし
た。Sさんは大変な読書家です。見ると表紙に純文学・・・云々とあるので、
私には不向きかなぁと思いながら受け取りました。
 見開き裏に「深い河、神よ、わたしは河を渡って、集いの地に行きたい<黒
人霊歌>」とあり、「やき芋ォ、やき芋ォ、ほかほかのやき芋ォ」と本文が始
まっています。いきなり引き込まれて、一気に読み切ってしましました。
(本文より) 一人ぽっちになった今、磯辺は生活と人生とが根本的に違うこ
とがやっとわかってきた。そして自分には生活のために交わった他人は多かっ
たが、人生のなかで本当にふれあった人間はたったの二人、母親と妻しかいな
かったことを認めざるをえなかった。
「お前」 と彼はふたたび河に呼びかけた。「どこに行った」
 河は彼の叫びを受けとめたまま黙々と流れていく。だがその銀色の沈黙には、
ある力があった。河は今日まであまたの人間を包みながら、それを次の世に運
んだように、川原の岩に腰掛けた男の人生の声も運んでいった。(後略)
 そして私の人生もこの本と共に運ばれ、いま転生の人生を送っています。

                              (95/02/05)